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3次救急病院の実際

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救急医療は、1次救急、2次救急、3次救急の大きく3つに分けられる。

1次救急病院は入院を必要としないケース、2次救急病院は入院、手術を必要とするケース、3次救急病院は、2次救急病院では対処できないような重症ケースや高度専門医療を必要とするケースを担当する。

3次救急病院は言わば最後の砦である。

一時期、某3次救急病院の神経内科で研修医をしていた。研修の最初は指導医のもと治療にあたっていたが、最後の方では夜間帯の当直を任され、脳・神経に門する全ての救急疾患を受け持っていた。

そこで培った知識は今、少々の救急疾患でも冷静に対処できることにとでも役立っている。

ここでは神経内科での3次救急病院の治療の実際の流れを紹介する。神経内科の担当範囲は脳・神経に関することで内科的に対応できる全ての疾患である。

まず救急隊や高度の救急設備を持だない近隣の病院やクリニックから、「急に右腕が動かなくなった」「高熱を出して暴れている」「突然倒れて意識がなくなった」といったような電話が入る。

同時に意識レベルや血圧などのバイタルサインも伝えられる。

これらの電話で大体の疾患を想定し、緊急性かあるかを判断し、緊急性があればすぐに来院を促す。

救急隊によって連れて末られた患者さんはストレッチャーで処置室に運ばれて、その間に救急隊員から症状の出現した時間や意識レベル、バイタルサイン、症状の変化などの引き継ぎを受ける。

処置室に入るとすぐに点滴ルートを確保するとともに採血を行う。

それから患者さんに呼びかけ、意識レベルの確認(受け答えできるか、意識がはっきりしているか等)を行い、身体所見をとる。

神経内科では、脳梗塞、クモ膜下出血、脳内出血、脳炎、てんかん発作などが緊急疾患であり、身体所見診察は休に現れる多様な身体症状を察知するために行う。

脳梗塞であれば手足の麻疹、クモ膜下出血なら激烈な頭痛や叶き気、脳炎なら発熱し首が硬くなったりするため、それらのサインを見逃してはならない。

心電図モニターで、心電図波形、血液中の酸素濃度、血圧、脈数を計測し全身状態を経時的にチェックする。

呼吸状態が悪ければ酸素マスクで酸素投与を行ったり、場合によっては挿管といって喉に管を入れ人工呼吸器に繋げ呼吸の管理を行う。

一通り処置が終わると、脳のCT撮影を行う。急性期の脳梗塞はCTには写らないが、頭の中に出血があれば白く光るのですぐにそれと分かる。

脳梗塞の可能性が高ければ脳MRIという検査を行うことも多い。超早期悩梗塞であれば血栓溶解療法といって血管内の詰まった血の塊を溶かしたりするが、ある程度時間が経っていれば、それ以上に進行しないように脳保護剤などを点滴に混入しながら絶対安静にする。

脳に出血がみられた場合、脳外科との連携が必要である。出血量が多ければ脳を圧迫して呼吸が止まったりするため、緊急の脳外科手術が必要になるからだ。

脳炎の症状も多彩である。発熱がなければ精神科患者さんと間違えられてしまうため、慎重な診察が必要である。

このように救急疾患は即座に判断し、処置を行っていかねばならない。処置が遅れたり判断を誤ると、重い後遺症が残ったり死亡に繋がってしまう。

迅速且つ正確さが特に要求されるのである。

児童思春期の子どもも患者に

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診療対象患者さんは下は1歳半から上は上限がない。

1歳半は保健所で施行されている1歳半検診で要フォローとされた幼児の発達相談外来である。

上は70~90歳代のアルツハイマー型認知症患者さんが多い。

児童で多いのは自閉症や注意欠陥性・多動性障害などの発達障害、不登校、親からの被虐待児などである。

思春期では、それらに加え、家庭内暴力、摂食障害、家出、過量服薬、リストカットなどの白傷行為、自殺企図、シンナー乱用、薬物乱用、万引き、性非行などである。

通常の子でも思春期は人生で最も大きく心が揺れ動く時期である。このため、外来診察場面では実に多彩な症状をもった少年少女たちと出会う。

ある非行少女に出会った。

彼女は中学生の頃から、家族との確執に悩み、拒食、リストカット、過量服薬、万引きを続けていた。

最初の診察でいきなり私に向かって声を荒上げた。「私を本気で診る覚悟ある?私真剣なのよ。診る自信がないなら止めるから」。

思春期外来は毎回真剣勝負である。彼女も必死であった。それから彼女は毎回何度も私に敵意を露にしてきた。

本当に途中で見捨てないで診てくれるかといった私への試し行動である。

夥しいリストカットの痕、拒食でどんどん落ちていく体重。回を重ねる度に少しずつ心を開いてくれ、自傷の回数が減り体重も増えてきて良くなったな、と思いきや、「死のうと思って薬をまとめ飲みした」といった展開が約1年続いた。

その度私は振り回されて、出ロがみえなかった。

そうするうちに「もう大丈夫、よくなった。学校にも通える」と言い出し、突然学校に行き始めた。

私もとりあえず安心した。

しかしそれもつかの間であった。彼女の母親から「娘が窃盗で警察に捕まった」という連絡があった。

聞くところによると、ずっと窃盗を続けていたらしい。

私の前では精一杯よくみせていたのだろうかと思うと、残るのは無力感だけであった。

結局彼女は数日間警察に拘留された後、少年鑑別所に送られてしまった。

私はその時患者さんを治せないのではという不安に取り付かれ、精神科医の仕事への虚しさに苛まれてしまった。

その後も彼女とはいろいろと紆余曲折があった。

それがどう影響したかは分からないが、結果的には劇的に改善し現在、希望の職業に就け真面目に働けている。

職場恋愛後結婚し、近々出産予定であるという。

思春期の少年少女は関わり次第劇的に変化していく。それを実感した一例であった。

精神鑑定と精神科医冥利

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裁判官と直接会って話した人は、何らかの事情(法務関係の職種、裁判の原告・被告、犯罪者、証人など)のある人しか普通はいないであろう。

テレビで法廷の上に座り厳かな判決を下す裁判官は、まさに雲の上のさらに上にいるような人である。

しかし、そんな裁判官がわざわざ時間をかけて病院まで会いに来てくれるのである。

精神鑑定を行う前に、裁判官の前で、誠実に鑑定を行うという宣誓をする必要がある。

普通は鑑定人が裁判所に呼び出されて、そこで宣誓を行うことが多いが、どうしても都合がつかないときなど、裁判官、書記官、さらに検察官、弁護士まで揃って病院に会いに来てくれ、病院の一室を使って宣誓式を行ったりするのである。

裁判所から選定された鑑定人(精神科医)は、まず関係者でないと見ることのできない数百ページに及ぶ一連の捜査資料を裁判所から手渡される。

そこには事件の一部始終が記載されている。犯行の経緯、被害者の写真、司法解剖の様子、被疑者の供述などである。

これをジャーナリストに漏洩した精神科医が逮捕されたのは記憶に新しい。

その後、被疑者と面接するために拘置所にイ可度も出向いたり、逆に刑務官に頼んで被疑者を病院まで連れてきてもらい心理検査を行ったり、脳波・脳CTをとったりする。

その後、おおよそ2~3ヶ月かけて鑑定書を作成する。

鑑定書は通常50~200ぺージ近くに及ぶ。鑑定書の最後には鑑定主文と称して、犯行当時の被疑者の精神状態に責任能力が問えるかどうかを記すのである。

例えば、犯行時、被疑者は精神障害のため心神喪失状態であったなら責任能力は問うことが難しく、犯行に対しては起訴されない(無罪になる)可能性があるのである。

場合によっては、鑑定書の内容に関して裁判の席で証人として喚問されたりもする。

自分の鑑定した結果が裁判の行方を決める大きな証拠になるため、実にシビアな仕事である。

鑑定人の選定は検察や裁判所から直接鑑定依頼がきて、鑑定内容や条件が合えば合意の上で引き受けることとなる。

精神科医なら希望すれば誰でもできるというわけではなく、これまでの鑑定経験や、鑑定の分野(例えば、覚せい剤依存など)や司法精神医学にもある程度精通していることが望ましいとされる。

しかし鑑定業務は原則通常勤務の合間に行うため大変な労力がかかり、また公判で証人喚問され弁護士、検察官から鑑定内容について追及されることもあり、概して鑑定人のなり手が不足している。

しかし、そんな中テレビニュースなどで自分が作成した鑑定書通りの裁判結果が出たときなどは、精神鑑定をやりとげた達成感は格別であり、精神科医としての冥利に尽きるのである。               

2種類の精神鑑定とは

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ある凶悪事件が起こって、被疑者が逮捕された後、その被疑者が何かわけの分からないことを言っているので、検察側は精神鑑定を行う方針であるといった新聞記事を読んだり、テレビ報道を見た人はいないだろうか。

そう、その精神鑑定である。精神鑑定とは、大きく刑事鑑定と民事鑑定に分かれる。

刑事鑑定は犯罪した人(被疑者)の精神状態を鑑定し起訴の際の資料としたり、民事鑑定は、例えば知的障害者が高額な物件を契約させられた際の精神状態や高齢者が遺言をした際の精神状態を調べ、果たして適切な判断能力をもっていたかを鑑定したりする。

多くは刑事鑑定であるが、この精神鑑定に際しては、精神科医の出番なのである。

野戦病院のような感覚も

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近所で不審な男が意味不明なことを言いながら暴れているといった通報が警察に入って、知事命令で診察依頼(措置診察という)があれば留置所に出向いて診察したりすることもあり、警察と精神科は関係が深い。

また弁護士や裁判官などの司法関係者ともしばしば会合をもつことも精神科医の特徴であろう。

かといって、精神科医が身体を全く診ないということはない。

多彩な精神症状が出現した患者さんに対して見落としてはならない身体疾患がある。

それまで全く普通だった人が、突然意味不明なことを言って暴れ始めた、急に元気がなくなったとかで、生半可な知識のある周囲の人から精神科に行ったほうがいいと勧められ精神科受診となるケースもある。

急に精神症状が出たというエピソードの裏には、低血糖、脳炎、頭蓋内出血、急性薬物中毒、急性腎不全など、見落とせば即、命にかかわる疾患があるのである。

丹念に病歴を聞き、必要があれば採血や脳CTなどの検査を行い、これらの身体疾患を除外していかねばならない。私もこれまでに幾例も経験した。

また精神科入院患者さんの中には、一般の市中病院ではお目にかかれないような酷い身体疾患をもっている患者さんもいる。

一般病院では患者さんが暴れて診てももらえないケースが多いのだ。

だから精神科病院では重篤な身体疾患をもった患者さんの突然死もしばしばある。

かつて行っていた精神科病院の当直のアルバイト先で一晩に3人亡くなったこともある。

しかも精神科病院には満足な医療機器が揃っていないことも多く、病院なのに病院でないといった現象も起き得るのである。

まるで野戦病院のような感覚で立ち向かっていかねばならないこともある。